特集 ・ エコツーリズムとJICA研修
■ What's Eco-Tourism? -なぜエコツーリズムが生まれたか?-
 20世紀後半になって、日本はもちろん、世界各地において、ツーリズムが盛んに なり一大産業に発展しました。ところが、その結果、商業主義が先行してマスツーリズムの展開に 道を開くこととなり、ツーリズムの対象となる自然や文化遺産へのダメージが大きくなってきました。
 また、増加するツーリストのために、施設の管理や運営、ゴミの処理など、地域社会への 影響も著しくなってきました。一方、これらツアーの運営は、大半が大手ツアー企業に 限られるようになりましたから、ツーリズム産業の経済的利益が地域に還元されないという弊害も 生まれてきました。
 さらに、地球規模での環境破壊が重要な課題となり、自然資源や文化遺産は、 単にツーリズムの資源としての役割だけではなく、地球環境を支える重要な要素 としても注目され、その価値と役割についての普及啓発、環境教育活動の展開も 求められてきました。こういった中で「エコツーリズム」が生まれました。
 ツーリストが自然や文化に親しむと同時に、その価値と保全について理解を深め、 そして行動に参加するツーリズム、自然資源や文化遺産へのダメージが少ないツーリズム、 地域のツアー運営によって、地域が経済的に潤うツーリズム、という アプローチがエコツーリズムです。
 現在、自然資源や文化遺産の保全、地域への経済的利益の還元を求めて、 コスタリカ、マレイシアなどの中南米、東南アジアなどで取り組まれ、環境教育の普及という 切り口では、ニュージーランド、オーストラリアなどで展開されています。
 自然や文化と親しむという点では、近年、「体験ツアー」や「冒険ツアー」などがあります。 これは、自然資源や文化遺産の価値や役割について理解を深め、その保全活 動に参加する、また、地域によってツーリズムが運営され、その利益が地域に還元さ れることを目的としていないことが多いため、エコツアーと異なっています。しかし、 今後エコツーリズムが、これらの「体験ツアー」「冒険ツアー」あるいは各種のマスツアーと 連携するという取り組みは、エコツアーの目的を実現する上で重要な課題です。
 日本国内におけるエコツーリズムは、豊かな自然や文化遺産が保全されている屋久 島や西表島、そして北海道を中心に普及しつつあります。屋久島の屋久杉林をフィールドとする フォレストツアー、西表島のマングローブ林におけるカヤッキングツアー やシュノーケリングネイチャーツアー、北海道の渓流をたずねるリバーウオッチング、 北海道在来種のどさんこ馬を活用したホーストレッキング、サケの遡上する河川での ネイチャーツアー、蛇行する自然河川での湿原カヌーイング、また、雪原をフィールドとした スノーシュートレッキングやクロスカントリースキーハイキング、凍結した湖沼を訪ねる御神渡りネイチャ ーツアーなど、様々なプログラムが地元の人々や団体によって運営されています。
 国際エコツーリズム年(UNESCO 認定)を翌年に控えた2001年の6月、福島県裏 磐梯では、国際エコツーリズム大会が開催され、アジア、オセアニア各国の担当者、 関係者が集い、各国、各地の事例の発表やエコツーリズムの理念、運営のための 手法やマーケティングのための枠組みなどについて検討しました。
 他方、エコツアーガイドの養成なども検討されています。北海道では、行政や 民間、NGO 、地域の大学などが連携したエコツアーガイドの養成講座が2002年 から開講します。
 また、KIWC では、自然資源や文化遺産の賢明な利用手法の一環として、エコツ ーリズムに注目し、JICA と提携し、1997年から、途上国の担当者を対象と するJICA エコツアー研修を実施しています。
 今後、地域の賢明な発展と地域レベルの地球環境保全への取り組みの一つとして、 エコツーリズムの普及が求められています。 (KIWC 新庄久志)
 1998年から2001年にかけて、国連訓練調査研修所(UNITAR)との共催で、 釧路にて3回にわたり開催された「生物多様性に係る多国間協定の履行に関する アジア・太平洋地域のための研修ワークショップ」の報告書が、この度まとめられました。
 報告書の中で研修参加者、研修関係者は揃って、この一連のワークショップを高く評価しており、 研修が日常の業務において具体的かつ持続した効果をもたらしたという報告に、 KIWC は心から喜んでいます。
〜日本のラムサール登録湿地を紹介するこのシリーズ、今回はKIWC のホームグラウンド(湿地?)でもある釧路湿原です。
 北海道東部に位置する釧路湿原は、面積約18,000ヘクタールと、日本で最も大きな湿原です。 広大な泥炭地の80パーセントはヨシ、スゲ類におおわれた低層湿原ですが、 中央部にはミズゴケの高層湿原や、ツルコケモモの生育する中間湿原が点在しています。 釧路川とその支流が網の目のように走り、東側には塘路湖、シラルトロ湖、達古武湖の3 つの淡水湖 があります。
 湿原には絶滅の危機にあるタンチョウやシマフクロウ、オジロワシ、オオワシをはじめ、氷河期の遺存種といわれるキ タサンショウウオ、イイジマルリボシヤンマなどが生息し、野生生物の宝庫でもあります。
 特にタンチョウについては、一時は絶滅したと思われていましたが、1924 年、 釧路湿原で十数羽確認され、このことが湿原保護の端緒となりました。その後、 1967 年にタンチョウは特別天然記念物になり、同時に湿原そのものは「釧路湿原」 の名称で天然記念物に指定されます。今ではタンチョウの生息数は、約800羽ま で確認されるにいたりました。
 さらに1979 年には湿原の主要部が国設鳥獣保護区に指定され、1980年にラ ムサール条約の登録湿地に指定されました。1987年には国立公園にも指定されています。
 1993年、釧路市においてラムサール条約の第5回締約国会議が開催されました。 この会議の開催期間中、通訳やエクスカーションでのガイドなど、各層から多く の市民がボランティアとして会議開催に協力しました。この会議を契機として、 湿地保全のための国際協力を進めるため、1995年にKIWC が設立されました。
 KIWC は、釧路湿原だけでなく厚岸湖・別寒辺牛湿原、霧多布湿原という釧路地 域のラムサール条約登録湿地等における地域レベルでの保全への取組みと賢明な 利用の推進を図るとともに、地球規模での環境保全に寄与することを目的としています。
 主な事業としては、JICA の湿地保全研修等の受け入れ、環境分野の国際会議・ ワークショップの開催、各分野の研究者で構成する技術委員会での当地域の湿地 をフィールドとする調査研究、ラムサール条約の趣旨や湿地保全に関する情報の 発信などを実施しています。
 現在、釧路湿原は地域のみならず、世界にとっても重要でかけがえのない財産 となりました。今後も引き続き、国や関係町村地域、そして世界の人々との連携 を図りながら、釧路湿原のすばらしい自然環境を次代に引き継いでいきたいと考えています。 (釧路市環境部環境政策課)

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