「道東湿地郡をフィールドとする環境教育」

KIWC技術委員会は、1995年に設立されて以来、「湿原のエコツーリズム」(1995年度)、「河川流水・湧水の環境調査」(1996〜1997年度)をテーマに研究を行ってきた。
 近年、私達は、地球規模のさまざまな環境問題に直面しており、人々の「環境保全」に対する関心がより高まっている。同時に、自然環境を保全するだけではなく、地域への経済的な恩恵を期待した「湿地の賢明な利用(ワイズユース)」や自然環境保全の普及啓発を目的として行われる「湿地をフィールドとした環境教育」も大いに注目されるようになった。
 1998〜2000年度、KIWC技術委員会は、「道東湿地群をフィールドとする環境教育」をテーマに、北海道東部に位置する湿地群で実施される「環境境教育プログラム」及び「エコツアープログラム」に注目し、地域における環境教育の普及啓発について、その目的、意義、役割を明らかにし、国際的に重要な湿地生態系の保全に寄与することを目的に、様々な角度から研究を行った。
1998年度は、主に各技術委員による研究・調査活動が行われ、1999年度には、それぞれの専門分野の調査・研究状況をまとめた中間報告書を作成した。そして最終年度である本年度は、技術委員が一堂に会し、フィールド研究を実施した。
2000年度第1回技術委員会では、大学・博物館・ネイチャーセンター等で行われている「環境教育プログラム」のケーススタディー発表が行われ、それぞれのプログラムの効果や参加者の反応等に関する意見・情報の交換や、参加者へのフォローアップの手法、プログラムの評価方法等に関する討議等が行われた。
 さらに9月には、国際協力事業団北海道国際センター(帯広)及び浜中町霧多布湿原センターの協力を得、霧多布湿原/浜中町霧多布湿原センターをフィールドに、KIWC技術委員会と「国際協力事業団(JICA)自然公園の管理・運営と利用(エコツアー)研修コース」の「合同フィールド研究」を行った。
「合同フィールド研究」では、浜中町霧多布湿原センターを訪れるビジターを対象として実際に行われている「環境教育プログラム」を体験し、プログラムを参加者の立場から客観的に観察し、同時に指導者のアイディア・技術に学ぶ大変貴重な機会となったようである。また、同プログラムに参加した海外の環境教育/エコツーリズム担当者は、フィールドとなった霧多布湿原が位置する浜中町の町・地域住民・地域産業を巻き込んだ保全活動に関心を持ち、センター職員等と地域レベルの湿地保全について熱心に討議した。「合同フィールド調査」の内容も最終報告書に含まれる。
同テーマによるKIWC技術委員会の研究活動は2000年度をもって終了するが、さらに興味深い、魅力的な「環境教育プログラム」を地域住民に提供していくため、新たなプログラムの開発と、指導者の知識の習得及び技術の向上が求められていることから、2001年度以降も、本テーマに関するネットワークを拡充し、情報・技術の交換を継続して行っていきたいと考えている。

KIWC技術委員会

KIWC技術委員会(英文Annual Review2P下写真)
技術委員長 辻井 達一(北星学園大学 教授)

技術委員 
伊東 俊和 (霧多布湿原センター 主査)
遠藤 寿美恵(遠矢小学校 教諭)
小林 聡史 (釧路公立大学 助教授)
佐藤 光則 (塘路湖エコミュージアム 指導員)
澁谷 辰生 (厚岸水鳥観察館 専門員)
高嶋 八千代
(釧路湿原国立公園ボランティアレンジャー)
高橋 忠一 (北海道教育大学釧路校 助教授)
針生  勤 (釧路市立博物館 館長補佐)
蛭田 眞一 (北海道教育大学釧路校 助教授)

 
 JICA研修員は今

王室自然保護協会 事務局長
Lam Dorji ブータン

私は、1996年、「国際協力事業団(JICA)湿地保全および渡り鳥保全研修コース」《実施機関:JICA、受託先:環境庁(当時)・釧路国際ウェットランドセンター(KIWC)》に参加しました。
この研修では、湿地保全に関する理論的な講義だけでなく、湿地管理の実習も行いました。雄大な釧路湿原の景観に感銘を受けるとともに、湿原が環境ならびに開発の両面で、私たちに恩恵をもたらしてくれる貴重な存在であるという印象を強く受けました。釧路の自然と人間の調和のとれた共存関係は、良き手本として、今後も常に見習うべきものだと思います。
この研修に参加して以来、私の湿地管理に対する関心がさらに高まり、1998年、ブータン王国で最も貴重な湿地であるフォブジカ湿原について研究しようと決意しました。そして、修士課程の研究テーマとして、絶滅の危機に瀕しているオグロヅルが越冬するフォブジカ湿原とその地域の関係を取り上げました。私のこの研究結果に基づき、1999年、王立自然保護協会(RSPN)は、「オグロヅル保護と地域開発の統合計画」と題したプロジェクトを展開しました。このプロジェクトは、フォブジカ湿原を「オグロヅル保護・地域開発の統合計画」のモデル地区として発展させることを目的としています。RSPNは、このプロジェクトを通して、地域経済の繁栄の基盤となる湿地保全を展開していきたいと考えています。フォブジカ湿原は、湿地保全の重要性、およびその景観の美しさから、エコツアーのフィールドとして大きな注目を集めています。エコツーリズムは、地域経済を活性化し、それが地域住民によるオグロヅル保護活動・湿地保全を促進します。
「フォブジカ湿原 オグロヅル保護・地域開発の統合計画(ICDP)」は、成功を導く計画のモデルであると考えています。保全と開発が相互に補い合い、地域が「中間的な考え方」または「持続可能な開発という方針」を持つようになる日が来ることもそう遠くないでしょう。
言うまでもなく、ブータンの湿地面積はそれほど大きくありません。ブータンは、ラムサール条約締約国ではありませんが、王立政府は、国内の限られた湿地の生態系を保全するために最大限の努力をしています。私が事務局長を務める王立自然保護協会(RSPN)は、ブータン唯一の環境関連NGOです。ブータンの環境関連省庁との密接な協力関係のもと、王立政府の保全活動を支援しています。さらに、自然保護局ブラック・マウンテン王立公園管理事務所などの実施機関や協力者と共同で、保全活動の推進活動を続けています。
RSPNは、今後も引き続きJICAやKIWCと協力して、フォブジカ湿原を釧路湿原のレプリカとして発展させていきたいと考えています。


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