合同フィールド研究 
−霧多布湿原−
 

  平成12年9月28日(水)、釧路国際ウェットランドセンター(KIWC)技術委員会と「国際協力事業団(JICA)自然公園管理・運営と利用(エコツアー)研修コース」の合同フィールド研究が浜中町霧多布湿原センター等をフィールドに行われた。
 KIWC技術委員会は、設立以来、「湿原のエコツーリズム」、「河川流水・湧水の環境調査」をテーマに研究を行ってきた。そして、同委員会の平成10年〜12年度の研究テーマは「道東湿地群をフィールドとする環境教育」である。
 「JICA自然公園の管理・運営と利用(エコツアー)研修コース」は、JICA北海道国際センター(帯広)を実施機関、KIWCを受入機関として、1998年度から実施されている。本年度は、インドネシア、マレイシア、タイからの3名を研修員に迎えた。また、JICA北海道国際センター(帯広)の協力を得、北海道海外技術研修員受入事業に参加しているフィリピンの研修員1名が加わった。
 同JICA研修は、自然公園の利用の効果的な手法として、環境教育及びエコツーリズムの知識・技術の移転を図るとともに、研修員・地元研究者間の「技術協力関係」の構築をめざす。また、KIWCの活動目的のひとつが「地域レベルの国際協力の推進」である。これらのことから、合同フィールド研究が企画・実施された。
 浜中町霧多布湿原センターは、地域の豊かな自然を利用した環境教育プログラムを独自に開発・実施している。現在、年間約5万人のビジターを迎え、ユニークなエコツアープログラムを提供するとともに、霧多布湿原及びそこに棲む野生生物保全の普及啓発活動を行っている。また、同センターを設立・運営する浜中町は、「地域レベルの湿地保全活動」を積極的に展開しており、環境教育に併せ、地域住民や行政の湿地保全へのかかわりについても検討できることから、開催地として霧多布湿原並びに同センターを選んだ。
 合同フィールド研究には、霧多布湿原センター職員3名、KIWC技術委員7名、JICA研修参加者4名、通訳者(JICE)1名、KIWC事務局2名が参加し、館内案内技術、環境教育プログラム体験、環境教育/エコツーリズムに関する意見・情報の交換が行われた。
 同センターは、「触れて学ぶ」という体験型展示を目指しており、ビジターに展示物に触れてみることを勧めている。また、図書室にくつろいで本を読めるスペースを設置したり、乳児が休めるベビーベッドを用意するなど、館内の設備にビジターへの細かい心配りが感じられる。釧路市博物館館長補佐の針生技術委員は、「釧路市立博物館の展示は主に大人向けに作られているので、博物館に加え、こどもでも楽しめる霧多布湿原センターのような施設があれば理想的である。」と述べた。
 体験した2つのプログラムの最終的な目的は、『はがき』や『バードコール』を作成することであるが、それらを作る過程で、センター職員が『野生生物の多様性』、『野生生物が生息するために必要な自然環境』、『森や湿地が果たす役割とその必要性』についてインタープリテーションを行う。楽しいプログラムを体験すると同時に、自然に関するさまざまな知識を吸収することができるよう、プログラムが構成されている。釧路湿原国立公園ボランティアレンジャーの高嶋技術委員は、「落ち葉ではがきを作ることによって、葉をよく観るようになる。はがきを作るという目的を達成する過程で新しい発見がたくさんある」とプログラムの効果に注目した。
 体験プログラム終了後、館内展望ラウンジで、地域住民によってつくられた『霧多布湿原センター友の会』の職員、今氏を加え、意見交換会が行われた。
 今氏は、「エコツアーでは、地元産業に精通することが大事である」と、保全活動に対する地域住民の理解を得るためにも、経済的利益の地域への還元が重要であると述べた。また、浜中町霧多布湿原センター主査の伊東技術委員は、「地元の牧場で作った牛乳・チーズや、地元で採れた昆布を使ったメニューを開発し、館内のコーヒーショップでビジターに食してもらっている」と、同センターで行われている地元産業のPR活動を紹介した。
 それに対し釧路公立大学助教授の小林技術委員は、「エコツーリズムの主な目的は『自然保護への還元』、『環境教育』、『地域経済への貢献』であると考えているが、日本国内では『地域経済への貢献』の重要性はあまり強調されていない。そのような中で、地域住民と協力して『地域へのフィードバック』に注目した活動を積極的に展開している浜中町は、大変良いと思う」と述べ、人と自然の相互関係を大事にして、地域の自然を保全、利用している浜中町の活動を高く評価した。
 一方、JICA研修員は、自国で採用できるエコツアーのアイディアをプログラムの中からいくつか習得し、自国での環境教育に今後役立てたいと述べた。それに対し、霧多布湿原センター職員は、「研修中に習得したアイディアを、それぞれ環境の異なった国で実施すると、違った発想が生まれてくるはず。新しいアイディアや提案があれば、ぜひ教えていただきたい」と、今後も情報交換等を行っていきたい意向を示した。
 北星学園大学教授の辻井技術委員長は、「今後、ビジターが国際化していくことが予想される。英語表記の解説や、木の学名を表示するなどの工夫があるとなお良い」と、視線を地域だけでなく世界に合わせていく必要性を指摘した。
 より多くの、また多様なビジターを迎えるために、プログラムの改善・開発は常に求められる。また、新しいプログラムの開発、インタープリターの技術向上のためにも、専門家間の情報・アイディアの交換等の技術協力が必要である。国内外における協力ネットワークの発展の重要性を再確認し、合同フィールド研究は終了した。
 KIWC技術委員会は、平成13年3月に「道東湿地群をフィールドとする環境教育」の報告書を作成する予定である。合同フィールド研究についても、同報告書にまとめられることになっている。


 
●霧多布湿原センター館内案内
 (約50分)

●体験プログラム1

 落ち葉の絵はがき
 (約90分)

 森で拾った落ち葉を使い、はがきを作るプログラム。あらかじめ用意された落ち葉を使い、(実際に森に行って落ち葉を拾う段階から行う場合もある)、各自でデザイン・作成・作品発表までを行う。落ち葉は、それぞれ色や形が異なり、葉を組み合わせたり、切って形を変えたり、色鉛筆で絵を加えたりすることにより、作品にそれぞれの個性が表れる。

●体験プログラム2

 バードコールでピクニック
 (約100分)

 「森の手入れをみんなでしましょう!」の合図にプログラムは始まる。種の多様性を維持するため、枯れかけている木や健康な木の成長の妨げとなる木を切る「間伐」や、木の成長を手助けするため「枝打ち」を行う。最終的には、切った木を利用してバードコールを作成する。バードコール作成作業中にはティータイムを設け、参加者と懇談して交流を深める。

●展望ラウンジでティータイム
 (意見交換)    (約60分)


霧多布湿原センター
〒088−1360
浜中町大字琵琶瀬村字4番沢103番地19
TEL 0154-65-2779
FAX 0154-65-2774
http://www.kiritappu.or.jp/center/
 

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